3つの連立方程式を解いている通信業界
-NGNでは、日本がリードして頑張っているというお話をよく聞きますが、世界の通信業界やITU-Tの中で、日本はどんな役割を果たしていますか
森川 NGNについては、日本のNTTがかなり標準化のリーダーシップをとっているというのは、動かしがたい事実かと思います。日本は、NGNに向けたポテンシャルとしては、光と移動体については、ほかの国よりも高いと思っています。国際的に見ても光ファイバ(FTTH)がこれだけ普及している例はみませんし、モバイル(移動通信)も、国際的なビジネスとしては成功していませんが、かなりのポテンシャルをもっています。これらが、NGNの発展の大きなプラットフォーム(基盤)になっているのは事実です。
-なるほど。村上さんいかがですか
村上 私は、いつも通信業界は今、3つの連立方程式を解いていると言っています。その1つが、電話網の設備更改の問題ですね。電話網は常に設備更改していかなくてはいけないのですけれども、交換機が古い技術になってしまい交換機をつくっても利益が出なくなってきました。交換機メーカーも、ネットワークのIP化に伴って交換機の製造を続けるわけにもいかない状況となってきています。新しい設備としてルータに置きかえなくてはいけない。これがどのキャリアもメーカーも直面している問題です。
2つ目が、ブロードバンドの普及です。もう電話だけの世界ではなくて、温度差はありますけれども、世界中どこでもブロードバンドの時代になっています。このため、キャリアとしては、電話からブロードバンドにどのようにシフトし広げていこうかという課題があります。
3つ目は、私たちはノントラフィック・ビジネスと言っていますが、単に電話とか通信だけやっていても、ビジネスは広がらないです。そこで新しいビジネスを開拓する必要があるのです。この3つ目というのは、別な言い方をすると、先ほど森川先生がおっしゃった連携なんですね。通信業者が、ほかの業界の方々と連携してビジネスを展開していく必要があるということです。例えば、おサイフ・ケータイのようなeコマース・ビジネスも連携です。これはある意味では、ニュー・ビジネスの創出なのです。
ノントラフィック・ビジネスというのは、電話をして単に3分10円とか、そういう通信した分(トラフィック分)だけお金を取るというトラフィック・ビジネスだけじゃなくて、付加価値ビジネス、すなわち通信することによって、何か新しい付加価値を生むというような、そういう使い方も含めて、いろいろな業界の方々と取り組んでビジネスを拡張していくということです。
-3つの連立方程式をどのように解くのでしょうか
村上 以上の3つを同時に成り立たせるために、どのような新しいネットワークにつくり変えていくかということです。これは、どこの国でも同じ状況に置かれているのですが、国によって少しずつ条件が違うため、必ずしも方程式の解がまったく同じということにはならないです。ただこの中で一番大きいことは、グローバルにつながるということ、設備投資とその維持管理が安くできるということです。ですから、NGNというのは非常にグローバルな動きになっていて、通信事業者はみんなで足並みをそろえてやっていこうという意識が高く、世界でNGNが盛り上がっているわけです。
NGNで連携し、新しいビジネスの開拓を!
-NGNで盛り上がっている、ということですが、盛り上がり方はいかがでしょうか
森川 まず、キャリア(通信事業者)が盛り上がっています。もともとキャリアには、このままのビジネスの状況では、固定電話の利益が下降線をたどるばかりであり、なんとか改善しないと展望が開けないというネガティブな側面からの危機感があります。いわゆる、もうからないのです。つまり、NGNは、このようなキャリア・ビジネスのネガティブな現状から、発想されているところがあります。
そこに、今、村上さんからお話があった新ビジネスの創出ということが途中から入ってきたのです。ですから、今までの交換機をルータにかえるだけですと、ただ単に通信設備を安くしたいというネガティブなことになってしまう。それだけではおもしろくない、プラス・アルファでやろうとなったのです。そこで、新しいビジネスを創出する、できればサード・パーティなども参加できるような環境を提供して、協力しあってビジネスを創り出していくというようなことになった。これは、多分後付けのような感じがします。
そうすると今までキャリアだけだったビジネスから、いろいろな業界を巻き込んで、連携しあって、新しいビジネスがどんどん提供されるようになる、そういうイメージとしてとらえればよいのでしょうか。
村上 そうですね。要するに、キャリアがすべてできるわけではないので、NGNという新しい通信環境を使って、何か新しいビジネスを興していくという動きになっていくのが、一番望ましいことです。
森川 後にお話いただく、NGNのフィールド・トライアル(実証実験)も、結局はそれが目的なのでしょうね。どういう使い方があるのか、その可能性を模索しているのでしょうね。
村上 後にお話しますが。そのとおりです。
森川 NTTも気づかない新しいビジネスが出てくると、フィールド・トライアルとして、NTTはまず成功だと思うんですね。ということで、家電関係から介護、医療、コンピュータ、プロバイダに至るまでいろいろな業界の方々に声をかけていますね。
村上 私たちは通信業者ですので、通信のマルチメディア化とか何とかということは得意ですけれども、どのようなところでどのように使えるのか、さらに、皆さんの生活やビジネスにどのように役立つのかということを、幅広く多くの方々と一緒に考えたいというところがあります。
NGNと放送・通信の融合、FMC、光化:すべてが同期しはじめた!
-全体的な流れを見ていますと、NGNが出てくる背景に、お話があった光ファイバ(FTTH)が急速に普及し大分盛り上がり、ぐっと立ち上がってきていて、既にユーザは700万加入を超えています。また、2011年にはアナログ放送をやめて完全にデジタル放送に移行していく、あるいは、固定通信系と移動通信系を統合するFMCが出てくるとか、モバイルでは第4世代が出てくるとか。NGNに同期させているわけではないと思いますが、放送も通信もモバイルも固定も、みんな待ってましたというような感じを受けるときがあるのですけど、先生、この辺どうみておられますか。
森川 これについて、ネガティブに言ってもよろしいでしょうか。端的にいいますと、これらは、全部ネガティブな動機から発想されたものだと思います。例えば、FMCは、固定のキャリアが現状の右肩下がりのビジネスを何とかしたいということから出てきている。放送との融合も、固定のキャリアがもうけるための発想から出てきた。結局、光ファイバ(FTTH)も、光でコンテンツを大量に配信できるから、ここでもうかる。
キャリアとしては、今のままじゃもうからないから、光化するとか、放送との融合を図るとか、FMCとかが出てきているのですね、そういうように見ますと、すべて同じ流れになっているのです。ですから、現在、これらが関連しあって、すべてがうまく同期して動きはじめているような感じがしています。このようなプレッシャーがないと進みませんから。
-そうすると、固定通信側から放送側に言い寄っている、また、固定通信側からモバイル側に言い寄っているということなのでしょうか
森川 そうですね。
-村上さん、いかがでしょうか
村上 現在、サービスとして、IPTVも含めたトリプル・プレイ・サービスなどが注目されています。トリプル・プレイとかFMCというのは、これは、日本だけの動きではなくて、グローバル(国際的)な動きですね。ネガティブな言い方をしますと、FMCはヨーロッパがすごく引っ張っています。なぜかというと、携帯の世界では、欧州がGSMという携帯電話の方式をつくって非常にうまくやってきています。
そのGSMのビジネス・モデルを携帯の世界だけではなくて、固定も含めて通信全体でやろうということで、それをFMCといっているのです。携帯電話(GSM)は通信のイメージを大幅に変えたんですね。しかも、国別のサービスではなくて、標準化を早く行い、新しいサービスをどんどん提供し、国境を越えてそれがどこでもつながるということをやったのです。これと同じことをNGNでもやっていこうとしているのです。そこのキーワードは、FMCということで、これは欧州が引っ張っているところです。
-米国はいかがでしょうか
村上 トリプル・プレイは、米国が引っ張っています。これを先ほどのようにネガティブなとらえ方をしますと、米国ではケーブル・テレビ(CATV)で、電話もインターネットもできるようになっているため、ケーブル・テレビが非常に強くなってきています。これと対抗するために、電話会社もテレビをやろうということで、トリプル・プレイ・サービスが盛り上がっているのです。このサービスは、ある意味ではバンドル・サービス(電話やインターネット接続との組み合わせサービス)というところからきているのです。
しかし、NGNが単に電話の置きかえではなくて、ニュー・ビジネスの創出だという話になってくると、欧州だけのFMCではなくて、世界的なNGNにおけるFMCだ、また、トリプル・プレイだというふうになってきていると思います。ですから、これは逆に言うと、そういうモチベーションは、欧州や米国から発したサービスを、すべてある意味では混ぜこぜ(これを「ブレンド」という)にして、新しいサービスとして提供できないかということで、これが今のNGNのドライビング・フォース(牽引力)の一つにもなっています。
先ほど申し上げたように、これらのサービスは、もともとはどちらもバンドル・サービスの発想からきているのです。バンドル・サービスにすると、キャリアの新しいビジネスになるとか、ユーザーの解約率が低くなるなどの効果があるのです。過激な競争環境がこの発想を生んだと言えます。しかし、ユーザー・サイドから見るとそれだけでは発展性はないですよね。最近、私たちはこれらをブレンデッド・サービス〔コーヒーのように何種類かのコーヒー豆(サービス)を混ぜたようなサービス〕といっています。
要するに、ネットワーク・コンバージェンスというのは、今までサービス別にネットワークがあったのですが、これをNGNでコンバージェンス(統合)することです。このNGNよって、従来のFMCとかトリプル・プレイというのは、バンドル・サービスからブレンデッド・サービスになっていくと思います。ブレンデッド・サービスというのは、境目のない混ぜ合わさった一つの新しいサービスというイメージです。
最近、標準化の仲間たちは、“コンバージェンス”というキーワードの次として“シナジー”という言葉を盛んに使います。技術的なコンバージェンスの検討を何のためにやるのか。それは、シナジーなんですね。このようにとらえますと、通信と放送の融合でも新しいサービスが生まれる可能性は大いにあるのです。





