IPv6 Summit 2006 レポート(2) パネル「IPv4アドレス枯渇を乗り越えるために」

IPv6 Summit 2006 レポート(2) パネル「IPv4アドレス枯渇を乗り越えるために」

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IPv4アドレス枯渇に向けたキャリアの対策は?

 最初のパネルディスカッションでは「IPv4アドレス枯渇を乗り越えるために」と題し、迫りつつあるIPv4アドレスの枯渇とIPv6への移行という一大事業に対して、ネットワーク事業者が抱える問題について議論された。

 チェアは日本インターネットインフォメーションセンター(JPNIC)理事の前村昌紀氏がつとめ、パネリストにはNTTコミュニケーションズの友近剛史氏、KDDIの阿部健二、IIJの松崎吉伸氏、ソフトバンクBBの印南鉄也氏という、日本を代表するISP事業者が揃って登場した。


前村昌紀 氏

 前村氏は冒頭で、あらためてIPv4アドレス枯渇という「危機」を強調した。2006年4月にJPNICでは「IPv4アドレス枯渇に向けた提言」という報告書を公開したのをはじめとして、IPv4アドレスの枯渇と、その対策としてIPv6への移行促進を繰り返し訴えてきた。

 それにもかかわらず、このことの一般社会での認知度は低いままだ。それだけでなく、業界内でも十分に浸透しているとは言えない有様だ。

 「数字の上でなくなるという現実感と、実際になくなっていくのを体感するのとは随分違う。このギャップが今非常に大きな問題なのでは」(前村氏)

 では、実際にIPv4アドレスが枯渇したとき、なにが起きるか。枯渇したからといって、これまでIPv4で構築してきたインターネットがいきなり止まってしまうわけではない。

 しかし、新にインターネットに接続する利用者はIPv6アドレスしか利用できないため、そのままではIPv4アドレスとIPv6アドレスの間で通信が出来なくなってしまう。それを避けるために、あらかじめIPv4/IPv6のデュアルスタック化を進めたり、IPv6とIPv6の間で通信を可能にするトランスレータの設置といった対策を今から行なっていくことが必要だ。その観点から一番重要なのは、やはり事業者の今後の動向だ。


パネリストには主要ISPが揃った

インフラIPv6化の最大の障害は「コスト高」

 では、実際にISPはどのようにIPv4アドレスの枯渇と、IPv6の導入を進めているのだろうか。それぞれのパネリストによるプレゼンの内容から紹介しよう。

 NTTコミュニケーションズの友近氏は、IPv4アドレス枯渇に対する有効な解決手段はIPv6しかないと前置きして、IPv6化するうえでの課題について紹介した。

 まず一番大事なのは「一般のお客様がIPv4アドレス枯渇を意識しなくてすむようにすること」だという。そのためにはIPv6の接続サービスの提供が急務で、それはISPにとって「ある意味で責務ですらある」ことだ。

 それを踏まえて現状のサービスをIPv6化していく過程で見えて課題は、まずコストだ。直接ネットワークを構成する機器だけでなく、監視や事業を運用するためのシステムも、スタックのIPv6化ということ以外で対応が必要になってくるという。

 そして、過渡期においてはIPv4とIPv6のトランスレータが重要になってくる。このトランスレータをどこに置くのかというのも重要な問題になる。現在のコンシューマ向けブロードバンドルータのようにエンドユーザーのLANの出口に置くという方法もあるが、これでは必ずIPv4アドレスを1個使用するので、枯渇対策としては意味がない。ISPのバックボーンに設置したり、またはトランスレータ事業者が登場してDNSの設定変更も含めた総合的なサービスを提供することになるのでは、と語った。


NTTコミュニケーションズの友近氏

 KDDIの阿部氏は、自社のサービスにIPv6を導入するにあたってどういった問題があるのかを語った。KDDIでは、法人向けにネイティブとトンネリングによるIPv6接続サービスを提供しているが、まだ大規模なユーザーがついていないのが現状だという。

 しかし、現在ではIPv4のネットワークでも、新に設備を増強する場合や、古い機材を更新する場合などには、IPv6に対応した物を購入し、デュアルスタックサービスを前提としたネットワーク構築を行なっているという。

 しかし、KDDIでのIPv6化に際して、問題点は3つあるという。1つめはコストだ。IPv6対応を前提しにした機材やサービスは、現状では高くついてしまう。2つめは、運用経験の不足。IPv4に比べると小規模なネットワークとなってしまうため、なかなか経験が伸びないという。3つめは、仕様の不備や標準化の遅れなどのIPv6ならではのトラブルだ。そういったトラブルに直面した際、その解決のため発生するあらたな技術開発のコストを、キャリアが払うのか、ベンダーが払うのか、それともユーザーに添加するのかといった問題がある。

 阿部氏は、これらを解決するためにKDDIがIPv6関係者に期待することとして、大規模なネットワークで利用可能なトランスレータの開発、ユーザーにIPv6の利用を促すようなサービスや製品の開発、行政による規制や税制優遇などの支援の3点を上げた。


KDDIの阿部氏

 IIJの松崎氏は、ネットワーク設計の面からIPv6化の展望について触れた。IIJのIPv6サービスは、以前はIPv6専用のネットワークを構築していたが、現在ではデュアルスタック化を進めている。現在のインターネットのトラフィックが膨大な量になっており、そのほとんどが現状ではIPv4だが、IPv6への移行が進めば、IPv4のトラフィックがIPv6へと振り分けられることになる。それをさばくためには、IPv6専用のバックボーンを引くよりも、IPv4/IPv6デュアルスタック化したほうが、パフォーマンスの面でもコストの面でも優れているのだという。

 そして、IPv6の利用が進まない理由としてユーザー側のアクセスラインの問題を挙げた。多くのユーザー利用しているNTTのフレッツ網は、現在ではIPv6ネイティブのインターネット接続が利用できないからだ。ISPがIPv6サービスを開始し、エンドユーザーが手軽にIPv6を利用できるようするためには、この課題が重くのしかかっていると、松崎氏は語った。


IIJの松崎氏

 ヤフーBBの印南氏によると、ヤフーBBでも昨年からIPv6のトライアルサービスを開始しており、機材の更新時にはIPv6対応のものを導入しており、デュアルスタック化を前提にしているという。

 ヤフーBBの場合、アクセス回線は独自のもののため、その点でのIPv6化は容易だが、ユーザーに貸与しているモデムがIPv6非対応のため、そのリプレイスがネックになるという。

 以上のようにISPを代表して4社のIPv6への移行状況とその課題が説明されたが、総じて問題なのはやはりコストであるようだ。


ヤフーBBの印南氏

「IPv6は儲かるのか?」と聞かれたら

 インフラや設備のIPv6対応をしていくと、当然コストがかかる。だが、IPv4アドレスが枯渇する以上、事業を継続していくためにはIPv6化は必須であり、IPv6化に伴う費用は「必要」なものであるはずだ。だが、現実のビジネス場においては、IPv6化のコストはどのように見なされているのか。

 そのような状況を踏まえて、前村氏は「IPv6は儲かるのか、と聞かれたときどのように答えますか?」とパネリストに問いかけた。

 友近氏は、NTTコミュニケーションズでは、NTTグループを挙げてIPv6に取り組んでいるため「IPv6のことが比較的やりやすい」状況だという。さらに、その背景には、2つの視点があると話す。1点目は、IPv4アドレスが必ずなくなる以上、対策としてはIPv6しかなく、ならば対応は早いほどよいというものだ。「短期的にはこれはコストが掛かって非常にマイナス面が多いです。とは言っても、これを5年後に始めたら余計にコストがかかってしまう。トータルコストで見ると、早い内から用意して、ベンダーも巻き込んで解決していった方がいい」ということだ。

 2点目は、IPv6によって新しいビジネスが作られるという視点だ。「IPv6になると今までと違ったアプリケーションが出てくる。つまりそれは家の中から外ではなくて、家の外から中へアクセスしていろんな携帯電話からクーラーやビデオを操作したり、地震の警報を受けたり。いろんなサービスが出てきて新しいビジネスを作るんだと、想像するんだとい説明している」。

 一方で阿部氏は、KDDIでも機器の導入についてかなり苦労していると語る。「やはり会社は営利が目的ですので、儲かるのかと聞かれると、いつも黙ってしまう」という。それを乗り越えるためには、やはりIPv6ならではのキラーアプリケーションの登場と、アドレス枯渇が目の前に差し迫ってくることが必要だと強調した。

 松崎氏は、IIJではKAMEプロジェクトでIPv6に深く関わってきたこともあって、IPv6の導入については社内的に「追い風が吹いていました」という。しかし、ビジネス面からはやはりコンシューマーのアクセスラインが大きな問題で、フレッツ網でIPv6によるインターネット接続サービスが行なえない点が厳しいと再度強調した。

 「IPv6をユーザー宅まで延ばして、インターネットにつなげられる環境をぜひ提供したい。それによってIPv6のマーケットが一気に爆発すると思う」(松崎氏)

 ヤフーBBの印南氏は「我々の場合、一番はやいのはNさんとKさんがIPv6をやっていますよと社長にいうこと(笑)」と冗談めかしていいつつ、「ソフトバンクテレコムの研究所などでいろんなおもしろいアイデアは持ってはいるんですが、やはりお金の問題がある」。それを乗り越えるためには、現状では将来のIPv6化を見据えてのバックボーンへの投資という観点しかないと語った。

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